漫画、ジャズ、演劇。アートの香り漂うクリエイターの町、杉並区阿佐ヶ谷のエリアガイド。

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阿佐ヶ谷・地名今昔物語

武蔵野県多摩郡阿佐ヶ谷村。
明治元年、阿佐ヶ谷はこのように呼ばれていました。
明治二十二年五月、全国にしかれた市制、町村制により日本中の区画整備がなされ、現在の市、区、町、番地、号は生まれました。それより以前は公式の地名はあったものの、○○村までしか分けられていない、大雑把なものでした。

各地域は地元の人々のつけた「通称」で呼ばれ、大きな木や寺院、森林、山などを目印にして地名をつけていました。中には地元の人々の愛着を感じるおもしろい「通称地名」もあり、阿佐ヶ谷も例外ではありませんでした。

慣れ親しんだ阿佐ヶ谷の、かつての通称地名を紹介します。いつもの街を違う角度から見て、教科書には載らない歴史に触れてみませんか。
（阿佐ヶ谷の地名の由来は、こちらの記事をご覧ください。）

パールセンター　→　権現(ごんげん)通り（昭和二十年ころまで）

練馬貫井町円光院の、子の権現から堀の内妙法寺への参道だったことに由来。円光院には足腰の痛みや痛風にご利益があるとの言い伝えがあり、多くの人が権現通り（現パールセンター）を歩き、円光院まで通ったそうです。当時の阿佐ヶ谷は農村地帯で、権現通りの両側には雑草が生い茂り、たぬき、きつねがよく出ていました。

パールセンターの名称がついたのは、昭和三十五年四月。名残で権限通りと呼ばれていたほか、阿佐ヶ谷南商店街とも呼ばれていました。昭和三十年代は高度経済成長に沸き、名所を作ろう、という取り組みが各地でありました。
阿佐ヶ谷も勢いに乗り、駅前商店街に親しみやすい名称をつけるために区民からアイデアを募り、この名前がつきました。
カラーテレビが本放送開始したのは、この年の九月のことです。

阿佐ヶ谷南二 - 二十二　　→　カンカン塚（昭和初期まで）

仏道を修行する行者の墓が、この付近にありました。この場所を通ると、行者の持っていた楽器がどこからか「カンカン」と鳴り響く、と噂されていました。昔の人は目には見えない神様の存在や力を、いつも身近に感じていたことがわかりますね。

阿佐ヶ谷北六 - 一　→　捨て場（昭和初期まで）

家畜を埋葬していた場所です。動物の霊を癒すため、馬頭観音の石塔がありました。現在は世尊院境内へ移されています。

近隣の方々は、役目を終えた動物たちを労っていたのでしょう。
花などのお供え物が絶えなかったそうです。

動物の存在が、人間の生活と密接に関わっていたことがわかるエピソードです。

阿佐ヶ谷北四、五丁目　→　電信隊の原（昭和二十年ころまで）

この付近は帯状の原野で、陸軍の用地でした。中野電信隊（軍隊の電報を打つ部署）が目立つ場所にあったため、このように呼ばれていました。昭和二十年、敗戦により軍隊は廃止され、建物も撤去。跡地はバラック小屋が目立ち、闇市がひらかれていました。

阿佐ヶ谷北五丁目杉森中学校付近　→　ラッパの森（明治中期から昭和二十五年ころまで）

この場所は雑木林が広がっていました。陸軍の演習地で、休憩ラッパの吹奏が響いていたため、このように呼ばれていました。

阿佐ヶ谷北三 - 一　→　乱闘場（昭和初期まで）

上野戦争（一八六八年、東京・上野での戦）や明治維新の際、新政府に反抗していた幕府軍、徳川慶喜の警護もしていた彰義隊が新政府軍に敗れて逃げ込んだ場所。追ってきた新政府軍との激しい乱闘が起き、死人も出たことから、付近の人々にこう呼ばれた。
写真の通り、現在は商店街や墓地、民家の立ち並ぶ静かな場所。日本の激動の時代、この付近でも生々しいやりとりがあったとは！

いかがでしたか。地名の変遷を辿ることで、阿佐ヶ谷だけでなく日本の歴史の一端に触れることができます。「地名今昔物語」が、間近に迫った忘年会や新年会の話題のひとつとして広がり、知の発見になるといいですよね。日本中にはまだまだ、知られていないユニークな地名がたくさんあることでしょう。

参考文献
■YC阿佐ヶ谷　池川禎昭著
「阿佐ヶ谷　今と昔　読売新聞阿佐ヶ谷創業65周年記念」
■杉並区教育委員会
「杉並の通称地名」